SamSara



国金さつきの
《ミンドロレポートその11》



メンタルプロブレム〜日々の生活から



カラミンタオムラの小学校で...左端に立っているのがさつきさん。

ここで何をしているのか

 6月から始まる新学年をひかえ、学校は2ヶ月の休暇に入りました。この間奨学生達は皆親元の村へと帰ります。いつも飲料用の水(と言っても単に手動ポンプで汲み上げたちょっとましかなという程度の水です)を汲んで来てくれる自他共に認めるウオーターボーイの少年も例に漏れず帰郷しているため、隣近所の家まで水を汲みに行くのがここ最近の私の朝一番の日課となっています。

 先日日本の友人から「そこで一体どのような事をしているのか?」という内容のメールが届きました。ここサンタクルスで出会う人からもよく似たような質問を受けますが、答えるに難しいところがあります。何故なら何時から何時までという風に決まった時間勤務する仕事ではなく、もちろんやるべき事はありますが、24時間を通してマンニャンの奨学生たちと生活を共にすることがいわば重要な仕事と成り得る、極めて特殊な状況だからです。水道も、洗濯機も、しばしば電気も無い中で効率的とは言えない家事を共にし、細かなものの管理、お金の管理をしつつたわいもない会話をしながら一日を共にすること、その中でこそ見えてくることがたくさんあります。

危ういマンニャンの若者たち

 今現在奨学生たちは休暇のため、最も接する機会が多いのが元奨学生であるボランティアスタッフですが、彼らは18歳から27歳までの丁度私と同じ世代ばかりです。年齢としては立派な成人である彼らですが、子供たち以上に面倒な問題を抱えていると感じることがあります。小児マヒが原因で片足を引きずって歩く25歳の彼女は芯はしっかりしているし度量も広い方ですが、やはり足のことを気にしてか日中など少しの距離でも決して外に出ようとしません。行動範囲が狭くほとんど家の中に閉じこもっているため、概してマンニャン全体に言えることですが周囲のタガログ社会と接する機会に欠けます。一方、気さくで誰よりもおしゃれに気を配りよく外にも出歩く別の25歳の彼女は、かたや大勢の前や発言を求められた時など人が変わったようにおどおどします。間違うこと反対されることを極度に恐れているのです。笑顔の多い彼女は困ったとき、どうしていいか分からないときも作り笑いで切り抜けようとします。自信がなく愛情を強く欲している点は彼女の27歳になる兄も全く同じです。普段はおとなしく仕事ぶりも真面目で頼りになる兄貴分ですが、ふとした拍子に精神のバランスを崩して騒いだり、いじけて居なくなったりということがあります。自分の感情を素直に表現できない、言いたいことが言えない彼は、幼少時に継母に厳しく当たられた経験を持つといいます。母親から十分愛情を受けられず育ったことが今なおこの兄妹の心の奥に染みついて離れないものであると、日常の言動一つ一つから伺い知れます。

 皆に共通して言えるのは、経済的社会的実質的に不安定であるばかりでなく、精神的にも非常に危うい脆さを抱えているということです。家庭問題、病気、個人的性格など原因は様々ですが、それぞれがそれぞれに抱えた内面の問題が実質的安定の道を一層阻んでいるように思えます。「人間開発」が叫ばれるようになって久しい今日ですが、本当に人間を相手にする限りこうしたメンタルな部分のケアを考えずしては成し得ないのが現実ではないでしょうか。我々が相手にしているのは数値として計り知る貧しい人々、活字から想像しうる虐げられた人々というよりはむしろ、目の前にいる感情を持った人間であるということ、故の難しさを痛感しています。事実一人一人に逐一ケアを行うことなど出来るのか、内面的問題においてもメンテナンスが必要であるとしてその役目を我々が一手に引き受けるべきなのでしょうか。そこに永住して個人的に関わっていく場合を除いて、彼らに過大な愛情を与え頼られるべき存在となってしまうのは非常に危険だと思います。いつまでたっても依存の構造は取り除かれないからです。私たちは彼らと個人として対象としてどのように付き合っていくべきか、情に流されないように如何なる時にどの程度突き放すべきかを踏まえて人間関係の構築に気を配っていくことが草の根で生きる上で避けられない課題です。

若者のコミュニティーづくり

 こうした内面の問題からバランスを欠いて苦しんでいるのは、人間ならば誰しも起こりうる共通の悩みです。一人で成り立つのは難しい私たちだからこそ他と共にあること、すなわち彼らマンニャンの人々がコミュニティーとして組織化することが必須なのだと身をもって気付かされます。今事業地の一つカラミンタオ村で「CYO(Calamintao Youth Organization)」というコミュニティを結成し、ほぼ同世代の若手ばかりが集まって毎週農作業やミーティングを自主的に決めて行っています。楽しい集まり程度でまだまだ強靱な組織まではほど遠いですが、焦らず今後の展開を注意深く時に刺激を加えつつ見守っていくと同時に、毎日の生活を通して一人一人のフォローをしていく必要があります。市場に買い出しに行けなかった彼女が数メートル先の店まで行けるように、自信の無い彼女が間違っても自分から発言できるように、彼が「たばこが欲しい」という一言を発するのに何十分も掛からないように。私という異分子が入ったことで彼らの殻をうち破る変化のきっかけとなる作戦を、実際には会話だったり気にかけることを通して練っている試行錯誤の日々です。


windmill

2001年5月


21世紀協会ボランティアスタッフ
国金さつき
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