SamSara

佐賀弘の

《ミンドロレポートその30》




ファシリテーター




windmill

他人を理解する

 人が人を理解することは非常に難しいことであり、完全に理解することは不可能かもしれない。しかし、理解しようとすることは大切である。 私は小学校4年生の頃道徳の授業で"立場"というテーマがあったのを覚えている。人の立場になり、人の気持ちを考えること。自己中心的な視点から他人の視点へ。今でも人と接するとき、これを思い起こし気をつけている。それでも人の内面はなかなか見えてこないし、気がつくと自分の視点に戻っている。私は開発についての知識はなかったし、その現状も全く知らなかったが、ここミンドロでの生活を通して改めて人を理解する難しさを実感させられた。

 日頃、マンニャン族の人々と接していると、私たちの感覚では理解できないことがよくある。例えば、お化けや妖怪のようなものを信じていたり、山奥で水を飲むと悪霊が乗り移ると本気で信じていたりする。私たちは単なる迷信として処理するにちがいない。また、彼らから「ありがとう」「ごめんなさい」という言葉を聞くことは滅多にない。逆に日本人が謝りすぎということもあるかもれないが、明らかに私たちと異なる。

スタッフミーティング

 しかし、それは当然のことである。文化や言語はもちろん、考え方や感じ方をはじめとする感覚がすべてが異なるためである。私たちはどうしても自分たちの尺度で彼らを捉えてしまう。そして、その尺度を彼らに押し付けてしまう。それゆえ、理解し難いのである。ここで主体は彼らにあるべきで、私たちにあるべきではない。

主体性

 この21世紀協会の事業、少数民族マンニャン族に対する支援においても、彼らの主体性が重要となる。ところが、それは現実的に厳しい。彼らのうち文字を読める人は少なく、簡単な計算ができる人も少ない。そんな彼らがフィリピン社会でうまくやっていけるだろうか。でも私たちが気づかないような知識を豊富に持っている。それを活かす方向で彼らと対話しながら開発を進めなければならない。といっても、今言ったように彼らの主体性を忘れてはいけない。

 先進国から途上国への援助において現地住民の意志はどれほど反映されているのか。

 極端に言うと、外部の人間が貧しい村や町に入り込んできて、半ば強引に事業を行ったり、住民が欲しがるものを与えたりする。この際、外部の人間(与えた側)は、住民にとって当然良いことと思い、住民(与えられた側)も生活が豊かになると思い喜ぶかもしれない。そして、双方ともこの取り組みは成功すると思う。ここに"意識の断絶"が存在する。数年後、外部者が去り事業は続かず、新たに違う問題を引き起こすかもしれない。与えられたものは壊れているかもしれない、それを直す技術がないかもしれない。住民の外部者に対する意識は変わるかもしれない。

 このとき外部者と住民との間で対話が行われておらず、深いところで共通の意識を持てていない。つまり、外部者と住民との間に距離がある。外部者が、住民たちの人間関係を知りそれぞれが何を思いどのような問題を抱えているか、知る必要がある。

対話を促すPRA手法

 ここで求められるのが、主体的参加型農村調査法(PRA;Participatory Rural Appraisal) でいうファシリテーターのような人物である。チェンバースの言葉を借りると、"人に対して敬意を表し、リラックスして、急がず、興味を持ち、良い関係を築くことができ、人の話が聞け、学習でき、プロセスを始められ、そして邪魔をしない。"というような人物である。

 それは単なる情報の吸い上げをするのではなく、住民とともに学んでいかなければならない。開発においてそのファシリテーターは極めて重要な存在となる。最初に"理解しようとすることが大切である。"と言ったが、ファシリテーターはその専門家と言えよう。それは、決して開発の主役になることはない。いわば、その主役を引き立てる裏方に徹しなければならない。その末に住民主体の開発、参加型開発は成し遂げられるだろう。

 私自身、そのファシリテーターに憧れる。その存在が今までの先進国による先導的な開発から住民のエンパワーメントを目標とした住民主体の開発への移行を可能にするだろう。また、それは何も開発という限られた範囲でなくでも、人と人が出会い意思疎通するあらゆる場において、そのファシリテーターのような振る舞いが大切と思われる。人の立場で物事を考え、人を思い敬うことのできること。これから私はそれに挑戦し、奨学生を含めたマンニャン族の人々と接する中で、開発というものを捉え、そのあり方について考えていくつもりである。


windmill

2003年8月


21世紀協会ボランティアスタッフ
佐賀 弘

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