佐賀 弘
《著者》
佐賀 弘(さが ひろし)
特定非営利活動法人21世紀協会ボランティアスタッフ
2003年6月 21世紀協会からインターン生としてフィリピンへ派遣予定
◎論旨
NPOは現代の世の中に必要とされ注目を集める一方、一般の人々にはまだわかりにくい存在でもある。実は、私自身NPOの中身についてほとんど知らなかった。そこで、一般図書・過去の新聞等を検索し、自分なりにまとめてみた。
その上で、フィリピンでの体験を振り返ると、わからないなりにも自分の中でNPOというものがぼんやり浮かんできた。
しかし、NPOについて未だ勉強不足であり、これからのNPOの在り方についてさらに考えていかなければならない。
NPOの展望と課題 ― わたしたちの体験から
NPOとは、Nonprofit Organizationの略で非営利組織という意味である。NGO(Non‐government)が非政府性を強調しているのに対し、NPOは非営利性を強調しているが、この2つはほぼ同義であることから、NPOはさまざまな非営利活動を行う民間の非政府組織であり、利益を関係者に分配することを制度的に禁止された組織ということになる。
NPOが注目され始めたきっかけの1つは、95年の阪神大震災であると言われている。その際、全国からボランティアが駆けつけ地元NPOを拠点にきめ細かい救援活動を展開した。行政にとっても法令や予算などに縛られる行政のもつ質的な限界が認識されるにつれて、柔軟かつ機動性を持つNPOは行政の新たなパートナーとして期待されるようになった。
NPOの財源は公的補助に大きく依存している。これは日本に限ったことではなく、どの国のNPOにも少なからず見られることであり、このことが直ちに問題というわけではない。しかし、NPOが公的資金に依存すればするほど政府の下請けになる可能性が高くなる。特に、最近ではNPOに流れ込む公的資金が拡大しているため、NPO側も行政と対等の立場での協働が行えるように注意しなければならない。行政側もNPOについて理解を深め発展しやすい環境をつくることがNPOとの共同の仕組、パートナーシップを確立していくための課題である。
また、企業にとっても、民間公益活動をマーケティングの側面から捉えた場合には、現場をよく知っているNPOは重要なチャンネルになることが期待される。
NPOが注目されようになった別の大きな要因は、民主主義諸国においても政府の限界が明らかになり、資本主義諸国においても企業の限界が次第に明らかになってきたことがあげられる。
ロシアをはじめとする旧社会主義諸国の中には現在も混乱が残っている国がある。新聞・テレビ等で見る限り、これらの国の国民の生活の質は低下している。中国の打ち出した社会主義市場経済は貧富の格差を拡大させ、アメリカでは民主主義の欠陥と資本主義の欠陥が相乗的に噴出しているように見える。
これらの国家の在り方は、経済発展の状況等に応じて従来以上に多様になっていくであろう。NPOと慈善事業についても、それを認めない統治機構もあるだろうし、それを必要としない統治機構もあるうる。
日本のこれからの統治機構および経済システムの中でNPOをどう位置づけするかをもっと考えなければいけない。日本の官僚機構が機能不全に陥っているのは明らかであるにしても、現在の官僚機構を解体すれば良いというものではなく、官僚機構の力を弱めその分の機能を少しずつNPOに移していき、市民のニーズに対応することができる社会を目指すべきであろう。
さて、現代の社会の仕組は複雑で民主主義の欠陥が顕在化してきている。このような状況で民主主義の欠陥を是正するものとして民間公益活動が期待される。民間公益活動は、過度に行政に依存しない市民参加型の社会を建設することになり、行政機構の肥大化を防ぐ意味があり、少数者のニーズ・特殊なニーズに応えることができる。また、民間公益団体による政策提言・政策研究は、行政とは別の対策を提示することにより、より良い政策を選択する幅を広げることができる。
民間公益活動には、行政の量的補完のものと質的補完のものがある。行政が念頭に置いているNPOは量的補完のほうであるが、民間公益活動の本来の機能は質的補完にある。これは多元主義、多価値社会の実現を目指すもので、文化のように価値観が人によって異なるもの、あるいは政策研究のように政府に対して対策を提示するような活動は、本来的に行政では行えないものである。その他の分野でも所得水準が向上すれば価値観が多様化してくる。それに対応する民間公益活動が重要になってくる。
しかし、最近のNPOに対する行政の議論を見ると、日本の「政」と「官」には多元主義、多価値社会を目指す民間公益活動についての理解はまったく乏しい。「政」と「官」に対する以上に市民に対する啓発活動なくしては民間公益活動の発展はありえない。
民間公益活動は慈善事業として提供される民間の寄付金により依存する部分が少なくないが、これは寄付者にとっては行政とは別の民間公益サービスの提供を寄付者の意思によって促進することを意味する。慈善事業は、多額の寄付を行うことができる裕福な階層の意思で資源配分が行われることになるので、政策が歪められた民主主義に反するという批判がある。日本ではそれほど多額の寄付をできる個人はほとんどいないが、問題は企業である。NPOでも資金確保のために寄付者の意向に沿うように変えていく恐れがある。日本社会では企業の影響力が強すぎると思われる。
政治の面でも企業寄り過ぎるという問題がある。高度成長期に生産者自体を拡大することに重点を置き企業育成を図ったのは正しい。しかし、現在に至るまで生産者重視を続けていることは、行政が客観的情勢判断を誤っているとしか思えない。もしくは政府資金の拠出先である経済界への配慮が優先しているということかもしれない。
日本のNPOはまだまだ弱い立場にある。大規模な法人は行政の支配下にあるところが多く民間性に問題があり、民間性・市民性のあるところは財政基盤が極めて弱い。企業に望みたいのはNPOの運営そのものに対する助成である。また企業からNPOに組織経営のノウハウを移転することによりNPOを強化することもできる。
一方、NPOの陥りがちな罠は独善的になることである。これを避けるために組織や事業を客観的に評価することが必要になってくる。評価は一種の社会現象になっている。企業や自治体は言うに及ばず、国家でさえ評価・格付けされる時代である。NPOの場合はもともと活動を客観的に評価する仕組がない。しかし、NPOは、寄付者、行政、納税者、サービス受益者などのさまざまな利害関係者に対して、活動の正当性、あるいはアカウンタビリティを証明しなければならず、そのために客観的な評価のプロセスが必要なのである。
評価は、方法や判断基準、評価する主体などによって結果が左右される。重要なのは結果そのものよりもそのプロセスなのである。また、評価のための準備作業は自らを知る良い機会であり、組織力の向上に繋がるはずである。
NPOの社会的役割の増大につれ、世間の目は厳しくなっており、評価の必要性も確実に高まっている。手法の開発や専門家の育成など、評価の質を高めるための地道な努力が求められる。
NPOは徐々に確実に社会に浸透してきている。新聞・テレビ等で取り扱われる頻度も高くなってきた。その中で「NPOバブル」という言葉を目にした。ITバブルが弾けた今、高齢者や女性の雇用を生み出すNPOが経済活性化の切り札として注目され、財政難にあえぐ行政からの事業委託が急増している。しかし、NPOの大半は財政を含めて自立しきれていないだけに、場合によっては自治体の安価な下請け組織に成り下がりかねない。例として、財政的に苦しい大阪府池田市とNPOとの協働がある。
昨年10月、市は児童館の管理運営を地元NPO法人に任せた。結果は、NPOは年間の経費を大幅に節約し、且つ子どもたちを楽しませる新たな企画を打ち出し、来館者数は従来の1.5倍に増えた。
先に書いたように、今、自治体からNPOへの事業委託が急増していて、今後さらに事業委託を増やすという都道府県は全体の半数以上に上っている。
政府の産業構造改革・雇用対策本部もNPOを新たな経済主体と位置づけた。そして各省庁もNPO関連予算を大きく増やしている。しかし、こうした現状をNPOを運営している人たちは手放しでは喜べない。その背景には弱い財政基盤がある。昨年10月、国は、国税庁が認定NPO法人と認めた団体に対する寄付金を所得税や法人税の控除対象とする優遇制度を創設した。しかし、認定法人になれたのは全国のNPO法人8千団体のうち、わずか8団体である。こうした中、新しい資金調達の動きとして中間支援組織による寄付集めが行われている。
NPOは雇用や教育、福祉などの問題を一挙に解決するとしてもてはやされ期待が膨らんでいる。しかし、NPO法人が誕生してから早い団体で4年である。大半は発展途上で資金的にも人的にも基盤は弱い。
NPOが期待に応えられないとなるとNPOバブルが崩壊しかねない。NPOが行政から事業委託される場合はそれぞれに合った事業を選ぶことが大切である。行政も事業成果にばかり気をとられず、NPOを長期的に育てていく視点が欠かせない。
今後、NPOの組織運営が効率的に行われ、情報公開、評価制度を充実させることにより、資金面・人材面での不安をなくすことができるだろうか。
そして、行政、企業、NPOがそれぞれ対等な立場で協働することが望まれる。
実は、私は最近までNPOという言葉を知らなかった。しかし、先日(NPO)21世紀協会のインターン候補生としてフィリピン・ミンドロ島を訪れることができた。21世紀協会は、"教育が、国の発展の基礎となる。"との信念のもとに、教育および農業指導などを通して現地の少数民族を支援している。
実際、1週間ほどの滞在で見えてくるのは子どもたちの笑顔ばかりで、先に書いたような細かい部分は見えてこないが、水道もなく電気も不定期で厳しい環境の現地では、資金や人材の問題はもちろん、さまざまな厳しい問題を抱えている。
国内のNPO活動とはまた異なり、国際協力の現場では対話というものが重要になってくる。日本人スタッフ、現地スタッフ、現地住民それぞれ価値観のまったく異なる人間が対話を通して相互理解し、その上で計画立案し実行していかなければならない。ここで言う相互理解とは互いの違いを見極めるという意味でもある。そして、やはり自己評価し、また国際社会にアピールし評価されることが大切である。
私は、今後現地での活動を通してNPOという言葉を自らの力で理解し、国際協力に対する自分の考えをまとめていくつもりである。