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インターネット版 《サンサーラ》

SamSara

ひとつの地球


非識字の子

 非識字の子が世界に8億人以上いる。ユニセフ(国連児童基金)が昨年末に発表した「1999年版こども白書」で、世界で8億5千万人の子どもが読み書きできない状態にあることが明らかにされました。おとなの非識字人口を合わせると、世界でかなりの数の人が非識字の状態にあるということになります。白書ではこれを嘆いて母国語による教育などさまざまな対策を打ち出していますが、なぜ「識字」なのでしょうか。また、日本でも学校で習ったことが社会に出ても何も役に立たないといわれていますが、では、なぜ学校に行ってわけの分からない数学の方程式を解くために悪戦苦闘するのでしょうか。

マンニャンの子ども ロゴス

 そもそも人間を人間たらしめているのはことばです。古代ギリシャ語で人の話すことばをロゴスといいました。その意味が広がり、ロゴスはやがて言語、思想、理論へと発展して行き、現代英語のロジック、すなわち、論理になりました。ことばによって人は自分を取り巻く世界を理解することができるということです。そして、ことばは書き留められることによってより明確にものごとの意味を見極めることを可能とします。さらに、字を書くことを覚える過程で人は論理的な思考を訓練されて行きます。

知識ではなく、見識

 実は、字を覚える過程で、あるいは、数学の方程式を解く過程で、私たちはそれ以上のことを学んでいるのです。読み書きを覚える、あるいは、教育を受ける中で、ものごとを理解する力を養っていることは案外と忘れらてはいないでしょうか。知識そのものは目的ではなく、知識を得る過程で、論理的な思考、あるいは、体系的に物事をとらえる方法を身につけることが教育の最大の目的といっても過言ではありません。教育は、自分を取り巻く世界をより深く、広く理解するための第一歩なのです。このことを私たち自身、見失ってはいないでしょうか。

 知識の習得が最大の目的ではないとは言え、知識もまた、私たちを豊かにします。文字を読む、すなわち、本や新聞、雑誌を読むことで自分で直接見聞きすることのできる世界を超えて広い世界を間接体験することができます。熱帯に住む人は、見たこともない雪の降る国を知ることができます。年中雪と氷に閉じこめられた世界の人々は、雪を見たこともない人がいることを知って驚くことでしょう。

知識から理解へ

 そんな驚きの中で、海や山に隔てられた人々が互いの存在を知り、近づきます。フィリピンの北部のハイウエイを築いたのは戦前の日本人移民だったと知ったとき、あるいは、日本の私たちの家の材料がフィリピンで切り伐した木材だと知ったとき、フィリピンと日本の人々は互いに親しみを持ち、相手のことを気にかけることができるようになるかもしれません。南米の熱帯雨林の伐採が南太平洋の小さな島々を海に沈めていると知って、熱帯雨林の伐採をやめようという意識が広がるためには、どうしても大多数の人々の意識が自分の住む小さな世界を超えて、地球全体に広がるしかないのです。

 地球のどこかで起きたことが、地球全体に影響を及ぼすことがあるということをすべての人が知らなければならない今日、教育の普及のみが地球および人類を破滅から救う唯一の手だてなのです。(池田晶子)

《サンサーラ》 22号 1999.6.30初掲


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