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インターネット版 《サンサーラ》

SamSara

他人ごとではなく


baltic 顔の見える援助

 昨年、特に後半は、フィリピンが何かとニュースになりました。マニラ湾内でのフェリー事故、ミンドロ島北部沖地震、フィリピン航空爆破事件、また、無責任な日本人男性とフィリピン女性の間に生まれたフィリピーノ・ジャパニーズ・チルドレン問題など。ニュースの常で、喜ばしい出来事はほとんど記憶にありません。突発的な事件もありますが、どちらかといえば、フィリピンに巣食う根の深い事件ばかりです。そして、どの問題も、わたしたちの事業にも影響を与えかねません。ミンドロ島沖の地震は会員の皆さんもかなり心配されたことと思います。幸いなことに、わたしたちの事業の中心地であるミンドロ島西部は大した被害もなく、現地からは被害のないことが確認、報告されています。航空機の爆破事件はフィリピンを訪問する者にとって決して他人ごととは感じられません。また、犯行声明を出したイスラム過激派は、ミンダナオ島西部を主に活動拠点としており、昨年10月に当地ダバオ市を訪れたときも、少し前に市内の教会が爆破されるという事件を聞き、宗教紛争の根の深さを実感したばかりでした。

 また、ミンダナオ島にも、わたしたちの奨学生が生活しています。日本人の父親を持ちながら認知されないままに生まれた子供たち、ジャパニーズ・フィリピーノ・チルドレンは今のところ、わたしたちの奨学生の中にはいませんが、彼らのほとんどは貧しく、十分な教育も受けられない状態であり、私たちの事業の潜在的対象であり、事実、援助の依頼を受けたこともあります。

援助とは

 毎日報道される世界のニュースは、その国を訪れたことがあるとか、自分の仕事に関わりがるとか、家族か友人がそこで生活しているとかいったことでもない限り、それほど関心を持って、継続的に事件の経由を見守ることはできないものです。また、これまでのところ、他国の出来事にある程度無関心でいても、国内で生活する限りに於て、何の支障もなかったといえるかもしれません。チェチェンやボスニアで激しい紛争が起きても、日常生活には何の変化もなく、むしろまるで映画の映像を見ている程度にしか感じないかもしれません。しかし、日本人のこうした他国への無関心とは裏腹に、周辺諸国の日本への関心は絶大です。そして、この意識のずれは、年々大きくなり、これが日本の抱える大きな問題の源の一つになっている気がします。たとえば、最近よく耳にする国内産業の空洞化が国民の雇用状態に大きく影響を与えることは意識できても、それが生産拠点の海外移転を意味し、つまりは、日本企業の工場が周辺諸国に林立し、その地域社会をどんなに変化させてしまうかを考える人は少ないでしょう。ことは経済的現象にとどまらず、生活のすべて、ときに文化のあり方そのものにまで影響を与えるのです。

Baguio scholars Baguio scholars

 また、経済の巨人としての日本は出稼ぎ先や学問の場として年々外国人入国者が増えていますが、日本社会との関わり方はきわめていびつな気がしてなりません。特に、欧米以外からくる外国人のイメージは残念ながら、犯罪の増加や風俗産業と結びつきがちで、それがそのまま、かれらの国や文化の印象に投影される危険をはらんでいます。これらのことは、とりもなおさず、わたしたちの諸外国の文化や人々に対する関心の薄さ、とりわけ、経済的事象以外のつきあいが希薄であることを表わしているのではないでしょうか。われわれの援助は経済交流以外の、隣人とのつきあいを深める一つの手段だと思います。援助という言葉が欺満に聞こえるのであれば、隣人を知るための交流の一形態と考えてもいいでしょう。金や物の動きを通してではなく、事業を通して、人と人とが交流する手段の一つに『援助』という言葉が与えられている、といってもいいでしょう。

これからの事業のあり方

 事業の経済的効果だけを見れば、この3年間の成果は絶大なものがあります。皆さんの善意で集められた資金が、無駄なく、現地の人々に役立っているか、という点については自信を持って肯定することができます。しかし、彼らの、フィリピンの文化を、人々の生活をどれだけ理解してきたかという問いに対しては、まだやっと知り合ったばかりという程度です。異文化やそこで生活する人々を知り、友情を深めるという行為は長い道のりを要します。ある程度援助事業の成果が現われてきた今こそ、もう一度このことを思い起こし、事業の表面的成果を追うのではなく、人と人の絆を深める努力をして行きたいと思います。

(川嶌寛之)

《サンサーラ》 11号 1995.2.1初掲



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