SamSara

不動の動者


マンニャンの学生

多様性と選択の自由

 21世紀協会は多様性や選択の自由をめざし、滅びかけている少数民族マンニャン族の人間開発にあたってきました。人々の文化を大事にし、誇りを取り戻し、なおかつ一般社会に適応できる力をつけさせたいと、教育、農業、医療衛生などさまざまな方面からアプローチをしてきました。とくに教育、農業において重点的に取り組んできましたが、取り組みながら常に疑問を持っています。 識字教育は民族独自の言語ではないタガログ語で行っています。また、伝統的な反遊牧的生活様式を捨てる結果につながる農業を教えています。これは多様性ではなく、逆に画一性を育てていることにならないだろうか、と。

「天然記念物」

 文化の保存といった場合、前向きの保存と後ろ向きの保存が考えられます。

 森林を破壊され、食べ物がなくなり、生活手段のないマンニャン族は、このまま放置すれば、民族も文化も絶滅するしかないのが現状です。伝統的な半遊牧生活が成立しないような自然環境になった現在、彼らが選んだのが、低地人の字を学び、低地人の行っている農業を習得して生活の糧にしようという道です。21世紀協会は彼らの意志を受けて、積極的に彼らの文化を解放させ、その中で、低地タガログ人や世界と交わり、彼らの文化を有機的に発展させることにより保存するという「前向きの保存」の道を支援しています。

 もちろん、これまでの文化をそのままに残し、たとえば、マンニャン保護区のような区域を作り、人々を囲い込み、そこについてのみ人工的に自然の回復をはかり、伝統的な暮らしを守ってあげることもできます。しかし、この「後ろ向きの保存」の道を選んだ場合、人々の自立はあり得ず、いつまでも外部の善意の支援に頼ることになります。人々は「天然記念物」のように保護される対象になるのです。

展開し、変化して行く文化

 そもそも、伝統というものは展開し、変化していくものではないでしょうか。新しいもの、古いものが並立し、外部の影響を受けてさらに変化し、展開して行かずして、伝統や文化の意義があるでしょうか。民族の生存、文化の保存を硬直的に行うには閉鎖された世界を作り、外部との交渉をかたくなに拒否するしかありません。事実、そのようにして山奥に引きこもって出てこようとしないマンニャンの集団もいます。その集団も、村で収穫があるとなると山から下りてきて、食べ物の分け前にあずかりにきます。

拠って立つ大地

 文化は外部の影響で変化するものですが、文化はまた外部の影響を排し、自己のアイデンティティーを保つものでもありす。それは不動の動者というべきもので、地球のように自転し、太陽の周りを公転しながら、その上に住むわれわれには不動の大地を提供しているのです。拠って立つ大地があればこそ、人は自由に活動することができるのと同様、自己の文化を大事にしてこそそれを発展させ、外部と交渉しても蹂躙(じゅうりん)されずにいられる。それが文化の持つ力です。 

(池田 晶子)
《サンサーラ》31号 2003.12.14初掲


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