SamSara

自転車屋の国際交流記
〜その1〜






隙があったら、かかってこんかい

林 信之

 21世紀協会、ならびにサンサーラの読者の皆さん。はじめまして、私は京都の自転車屋の林です。

 私の店の近くには、大学や専門学校が数校あり、留学生が沢山います。もちろん、学生だけではなく仕事で京都に来ている人もいます。まったく日本語が話せない人もいれば、あやしい京都弁を駆使して話しかけてくる人もいます。

 初対面から、「毎度、おおきに」と言って店に入って来たオーストラリアから来たスカッシュのインストラクターがいました。彼は、随分古くなった自転車を持って来て、こう言いました。

 「ちょっと、この自転車を見てんか(見てくれませんか)」

 それは、自転車の命とも言えるホイールが潰れていました。その他に何ヶ所か破損しており、修理すると軽く安い自転車が買える程の金額になります。私は、彼に新しい自転車を買った方が良いよと、奨めました。それは、彼も理解しているのですが、新しい自転車を買う事には抵抗が有るようでした。

 彼が言うには、「そやけど、これは連れ(友達)が国に帰る時に、僕に残していったんや。すてられへん、くれた連れに悪いやろ。それに、新しい自転車を買う金、無いし。」 こんな事を言われて、黙って帰したら、男がすたる。「よっしゃ、何とかしたるわ」と、言ってしまったものの、実際には、かなり悲惨な状況でした。

 歪んだリムは、スポークを絞めあげて矯正し、エンドは工具で曲がりを直し、チェーンにはスペシャルグリスを塗って、その他諸々。部品を交換しないで、走れるようにしました。工賃1000円也(格安)。それ以来、彼は私の店にやって来て、嬉しそうに言います。 「まだ、乗ってるデ。大丈夫や、潰れてへんデ」

 それは、12月にしては暖かい日でした。その日は、天気が良いせいで朝から忙しく、昼食も落ち着いて取れないような日で、店の中も頭の中もひっくりかえっている所へ妙齢の白人女性が、マウンテンバイクを押してやってきました。最初は、パンクでもしたのかと思っていたのですが、タイヤを見ても空気が入っているし、自転車が古いという他は、特に異常は無が有りませんでした。そこで、どこが悪いのか聞いてみたのですが、彼女は全く日本語が話せないらして、身振り、手ぶりで説明しようと懸命でした。彼女が、言いたかったのは、ハンドルが低いので、高くして欲しい。と言うことでした。そこで私は、その自転車のハンドルを、限界まで引き上げて彼女に言いました。

 「This is max」彼女は、自転車にまたがって、ハンドルを握り、しばらく考えてから。

 「OK, thank you. How much?] と、私に聞き取れるように、ゆっくり言ってくれました。たいした仕事でも無いのと、私の英語力では、ろくな愛想もできず、

 「No, thank you」と、一言いいました。もちろん笑顔で。すると彼女は、どこで覚えたのか合掌していいました。
 「ドモ、アリガト。Good bye. Thank you」

 殆どの場合は、これで関わりあいが終わるのですが、翌日、今度はママチャリ用のアップハンドルとハンドルステムを持って昨日の自転車と共に彼女がやって来たのです。一目でなにをして欲しいのか、分かりました。これは、不可能な注文であるのと、その事を説明する事ができるかが心配でした。そこで、これは実際にやって見せるしか無いと思い、新車のパーツを出してアップハンドルに付け、「ほらね出来ないでしょう。」って顔で彼女に見せました。百聞は一見にしかず、不可能だという事が分かった彼女は、がっかりした様子で帰って行きました。

 これで話しが、終わったと思うは、まだ早い。それから、1週間程たった日の事です。彼女は、不可能を可能にしたのです。マウンテンバイクを自分で分解し、強引にママチャリ用のアップハンドルとハンドルステムをマウンテンバイクに付けてしまったのです。それも、ビニールテープでハンドルとフレーム(正確にはフロントフォークのコラム)にグルグル巻にして。しかし、肝心のブレーキレバーが取り付けられず、私に助けを求めて来たのです。私は、内心。「そやから、言うたやんけ。」と、言いたかったのですが、彼女の熱意?に負けて、ブレーキレバーを改造して、なんとかブレーキだけは利くようにしました。その他に、ワイヤーの取り回しなども無理が有り、マウンテンバイクとしての性能がなくなって終いました。それでも、彼女は満足したようで、喜んで帰って行きました。

それ以来、彼女は自分の友人達を私の店に連れて来るようになり、「小商い」ではありますが、店は賑わいました。本来なら、断わる仕事でしたが、困っている彼女の手助けをした事によって、商売の基本を再確認させてもらいました。

 「情けは、人の為ならず」ですが、情けが裏目に出た事もありました。その事は、また別の機会に。おやかまっさんどした。

《サンサーラ》16号掲載 1996.11.1

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